会合の後、先輩を自宅まで送る。
君に見せたいものがある。
なんですか?先輩。
先輩は何か素敵な物を私に教えたいようだ。
部屋が暖まるまでは、時間がかるんだ。
ばつが悪そうに先輩は、ストーブ2つに立て続けに火を入れた。
今日は特に気温が低い。
真空管は、温度が低いと機能しないらしい。
ソファーに座り、気がつくと目の前には大きなJBLのスピーカー。
その左側には高く積みあげられたアンプの棚。
そう、離れにあるこの部屋はどうやら、先輩の秘密部屋らしい。
先輩はコンポーネントを組み上げたサウンドシステムが奏でるレコードの音を聞かせるために私をこの部屋に案内したのだ。
先輩は会社の社長で、楽器もやる。
通された部屋の向かい側の部屋には、ドラムのフルセットが置かれていた。
大人の趣味とはよく言ったもので、先輩はこの部屋へはいって極上の音楽を楽しむのだ。
針を落としたLP盤のおとは、まるで歌い手や楽器が浮き上がってくるほどの臨場感がある。
立体的にしかも、それぞれのパートが分かれて聞き取ることができる。
音が同士がぶつからない、干渉しないのだ。
この音は通常CDで聞くような、冷たいデジタル音ではない。
レコードの音は心地よく、うとうとしてくる自分に気がついた。
うん、たしかにCDを聞きながらだと、耳に障ってすぐには眠りには就くことはできない。
アナログの音は、CDの音域よりもかなり広く、人の耳では聞き取れない領域まで出せると聞いたことがある。
日本でのレコード製造は、完全に終了しCDなどのデジタル音源に変わった。
だから、日本でアナログのレコードは生産されていない。
しかし音にこだわる欧米では、アナログのレコードは少ないながら、いまだに生産されているという。
日本は今までの価値あるものを簡単に捨ててしまう傾向があると、先輩は私に教えてくれた。
そういえば、私の自宅の倉庫にもステレオコンポがほこりをかぶってしまってある。
LPレコードもたぶん500枚ほどはあると思う。
これは、おじさんから譲り受けたクラッシックのLP盤だ。
先輩の秘密の部屋のように、ステレオコンポを組み立てれば、もしかしたら臨場感のある音楽が聞けるかもしれない。
そう思うと、明日が早く来ないかなと思ってしまう。
きっと、今日は寝付けないかも知れない。
「音」と「音楽」ってミーニングフルな響きを持つ漢字ですが、意味は異なります。オーディオが流行ったのは、もう30年以上も昔の事ですが、多くの愛好家は少しでも「音」の良い機器を探しては大金を出したものです。「音楽」はさて置いて、です。私もそんな「音」愛好家でしたが、ある時に加藤登紀子さんや森山良子さんの歌声をミニコンポで聴いて唖然とした記憶があります。「音楽」を通して歌手の魂を聴いた思いでした。それを機会にオーディオ投資は止めました。当時の残骸は居間に並んでいます。「音楽」を楽しみましょうよ。胡蝶蘭
返信削除コメントありがとうございます。音の共鳴できるのは、いい状態。もしくは、探していたものが見つかった喜びなのでしょう。様々な雑音が蔓延するなか、自然に近い音は私たちの魂に必要な大事な要素なのだと思います。コメント、ありがとうございました。
返信削除