内村の母、周子さん 銀メダルに万感の思い「子離れは一生できない」 体操
サンケイ新聞>>
会場でぐっとこらえて電光掲示板を見つめ続けた。体操男子決勝。4位だった日本の順位が銀メダルの2位に入れ替わった瞬間、内村航平(23)の母、周子さんは何度もうなずいて目を潤ませた。
「信じていました」
内村の父、和久さん(51)や日本代表メンバーの家族らと会場に駆けつけたが、演技中は直視できなかった。それでも種目の移動時には、内村に届けとばかりに応援メッセージ入りの「日の丸」を力いっぱい揺らした。
元体操選手の周子さんが指導する長崎県諫早市の自宅の体操教室で、内村も3歳から競技を始めた。小学校で友達が野球やサッカーに興じても、一人だけ帰宅して教室のトランポリンで飛び跳ねていた。学校で友達ができないか心配で、「野球してみたら」とも話したが、本人が興味を示さなかったという。
「体操をやっているときが一番いい顔をする」。それ以上は言わなくなった。
生まれたときから、内村はアトピー性皮膚炎に悩まされた。眉から額の毛が全部抜けるほど。かゆみが激しい内村の体に薬を塗り込み、食事面でも玄米を使ったり、洗剤にも気を使った。大切に育ててきたからこそ、「子離れは一生できない」と言い切る。
それでも、内村の選択は尊重してきた。高校進学時、2004年アテネ五輪男子体操の団体総合で金メダルを獲得した塚原直也氏(35)にあこがれて上京した。息子からたまにかかってくる電話で声を聞き、相談に乗った。大学に進学後は電話の回数も減ったが、大会には必ず顔を出して応援を続けた。
感謝の気持ちを言葉にされたことはない。だけど、会場で演技終了後、必ず手を振ってくれる。この日も笑顔で歩み寄り、表彰式で受け取った花のブーケをプレゼントした。
「いい顔を見せてくれるんです。『ありがとう』って言ってくれているようで」。ロンドン五輪代表に決まったとき、内村は「親をロンドンに連れていきたい」と話した。
「あれで、もう十分でした」。目標だった団体での金メダルは逃したが、万感の思いで頑張りをたたえた。(ロンドン 田中充)
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